ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第七十五話「二つの職杖」




 ハルケギニアの暦では九番目の月にあたる、ラドの月の半ば。
 セルフィーユの大聖堂で、リシャールはクレメンテ司教を正面に、部下となる聖堂騎士や大聖堂所属の司祭やシスター、学舎の寄宿学生、更には近隣の司祭までが参列する中で、ようやく騎士隊長就任式を終えようとしていた。
 この就任式自体にもすったもんだのやり取りが交わされたが、結局はクレメンテの希望が押し通される形となっている。
 リシャールは自らが称号を持つような騎士ではない上に軍功はおろか軍歴もないからと、なるべく地味な就任式を望んでいたし、アルビオン行きを考えればそちらに時間を割きたいところであった。
 しかし、気が付けば聖堂騎士と揃いの重甲冑の用意から、近隣の聖職者を集めた式典に近い就任式まで、ほぼ全てをクレメンテの希望通りに押し切られていたのだ。
「子爵リシャール・ド・セルフィーユ、謹んでセルフィーユ司教座聖堂付き聖堂騎士隊隊長を拝命する」
 おそらくは式典以外では使わないであろう重甲冑に身を包んだリシャールは、同じく形ばかり立派な聖杖を捧げ持って宣言した。重甲冑も聖杖も、リシャールが鍛冶場にこもって突貫で用意したものである。聖杖とは魔法を行使するための契約を行わず、騎士隊長の位を表す職杖としての役目に限定されるものであった。
 前日は沐浴なども行ったし、式次第に合わせていくらかの聖句や文言も覚える必要があり、アルビオン行きを控えた中での慌ただしい就任式ではあったが、これでどうにか無事に終えることが出来た。
「隊長殿、こちらへお願いします」
 就任式を終えたリシャールは、騎士見習いの先導で聖堂騎士隊の宿舎へと向かった。
 騎士たちは先回りをしたのか、全員が揃ってリシャールを出迎えた。居並ぶ聖騎士は七名。人が増えるたびに甲冑と聖杖を寄進していたから全員が見知った顔だったし、引き受ける前にも幾度か会合を重ねていた。
「テオドーロ副長、それに皆さん。
 今日からよろしくお願いしますね」
「は、隊長殿」
 リシャールは騎士隊長に就任したが、彼が実質的なまとめ役であることは変わらなかったから、形式的な申し送りはともかく、彼らの任務も何ら変わらない。これまで通り、彼らは訓練と司教区内の巡回に明け暮れることだろう。
 お飾りであることは、双方が承知していた。 
 それでも、お飾りなりにやることは多かった。リシャールの方でも不安はあったから、時間を作ってマザリーニより贈られた聖典を幾度も読み返したり、聖堂内での聖職者としての礼法なども自ら望んで詰め込んだ。付け焼き刃でもないよりはましという程度ではあったが、黙って立っていればそれらしく見えるぐらいにはなった筈だと、リシャールは自負していた。押しつけられたものではあっても、いいかげんに扱うわけにはいかないのだ。
 それに騎士隊長として立たされるのはセルフィーユでの式典ぐらいであろうし、領主の立場を優先することはクレメンテらにも確認を取ってある。
 軽い挨拶で申し訳ないと思いつつも、明日には王都へと立たなくてはならないので、リシャールは早々に大聖堂を後にした。リシャールの世話をする一団は荷物とともに先行しているので身一つで移動の予定だが、領地での仕事が残っているのだ。

 リシャールが庁舎での申し送りなどを済ませて城へと戻る頃には、もう日が陰っていた。
「おかえりなさい、リシャール」
「ただいま、カトレア」
 いつものように居間に向かい、編み物をしているカトレアの隣にゆっくりと腰を下ろす。触って様子が分かるというわけではないが、余人の目がない時などは、そっと手を伸ばしてみるリシャールであった。医者の見立てでは、出産の予定日まではひと月ほどを余していたが、服の上からでは大きく目立つ様子はない。
「うん、順調だね」
「ええ、もちろんよ」
 伸ばされたリシャールの手が、愛おしげに腹を撫でるカトレアのそれに重ねられる。
 本人も含めて誰も口には出さないが、リシャールが親馬鹿になるであろうことは確実視されていた。
「二週間と少しって言う話だからね、この子が生まれる前には帰ってくると思うけど、なるべく早く帰るようにするよ」 
「ええ、お願いするわね」
 
 カトレアには話していなかったが、先日に続けてマザリーニより届いた書簡には、アルビオン行きについての詳細が記されていた。
 王政府特使セルフィーユ子爵はトリスタニアの王城で親書を受領し、王軍のフネでトリステイン西部のラ・ロシェールへ向かい、そこで補給を済ませてアルビオン南部の軍港ロサイスを経由、王都ロンディニウムへと入る。ロンディニウムでは王城ハヴィランド宮にてジェームズ王に拝謁、親書を手渡し、視察や会談などを済ませて帰国。予備日も含め、約二週間ほどが日程として組まれていた。
 リシャールは今回、園遊会に続く融和外交の一環として各国に派遣される特使のうちの一人として、アルビオン王国へと派遣されることになったのだが、これは王政府のアルビオン担当の外交職にあった貴族が、高齢を理由に引退を決めてしまったことが遠因であった。
 本来ならば国外へと出向くことの多い仕事柄、領地を持たない法衣貴族から人事が決定されるのであるが、王政府内での各派閥の地位争いが尾を引き、後任の決まらぬまま各国へ特使を派遣する時期が決定したのだ。暫定的に誰かを派遣しようにも、どこかの派閥の息のかかった人物を据えては元も子もない。そこで各派閥の息がかかっていない人物のうちからアルビオンと比較的関係の深い者を選ぶことで、均衡を保とうとしたのだ。
 しかし、これもまた問題があった。爵位を持つ上級の法衣貴族はいずれかの派閥に属している者が殆どで、そうでない者は軍人貴族と相場が決まっている。合同演習や空海賊対策の会議などが主目的でなければ、軍人を他国に派遣することは相手の印象を悪くしかねない。
 ならば元からの一時しのぎ、諸侯から選ぶことも致し方あるまいと最初に名が上がったのは、王政府内の各派に対してほぼ中立で、その上園遊会でもアルビオンの歓待を一任されていたラ・ヴァリエール公爵であった。だが諸侯中でも重鎮と目される公爵を、融和、つまりはご機嫌伺いを主目的にした特使などに使えるものではない。ならばと選ばれたのが、中立であるラ・ヴァリエール閥かつアルビオンの上層部とも面識があり、それなりの爵位を有するリシャールだった。園遊会場でアルビオン王太子付きの案内役として一行に付き従い、それを大過無く勤めていたことも人選に影響している。歳若いことはむしろ、派閥争いに影響のするような動きは出来まいと、追い風になったほどだ。
 だがこれらの内幕はリシャールに一切知らされておらず、よって彼は、大方マザリーニか姫殿下の差し金であろうと見当違いの想像をして、内心でため息をつくにとどまっていた。
 各派閥が、一回きりの特使任命と決まっているリシャールの取り込みに、それほど力を入れようとしなかったこと。
 互いの牽制で、動きがとれない状態になっていたこと。
 これらが絡み合い、直接リシャールへと働きかけた者はいなかった。
 マザリーニはこれらの騒動には一切関与していなかったが、大凡のことは把握していた。だが王政府の内実などをセルフィーユ子爵に知らせても苦悩が増えるだけかと、予定のみを書簡にまとめて届けさせたのだった。

「王城で親書を受け取って、向こうでそれを渡すだけだから、心配はないよ。
 フネも空海軍の差し回しだし、段取りも王政府が決めたものを守るだけ。
 だから僕でも出来る、って思われたんじゃないのかな?」
「そうだといいのだけれど……。
 ほんとうに、気をつけてね?」
「うん、もちろんだよ」
 心配げなカトレアに、大丈夫だからと念を押す。
 マザリーニからの手紙を読む限りは、そう難しいことが要求されているわけではないらしいし、園遊会場でも、似たような仕事をこなした覚えがある。
 礼節を心がけ、親愛の情を示し、両国の融和をはかる。特使は重要な任務だ。
 だが、俗な一言で言い換えも出来る。
 『営業』や『接待』は、リシャールの得意とする仕事の一つでもあった。

 翌日、見送るカトレアとの別れを惜しみつつアーシャへと騎乗したリシャールは、一路王都トリスタニアへと向かった。
 出発の期日までには二日ほどあるが、移動に半日を使うから、王城で親書の受領なども考えるとぎりぎりである。もう少し余裕を持つべきことは分かっていたが、なかなかに難しい状況なのだ。
「アーシャ、僕の子はどうだった?」
「うん。
 今朝も見てみたけれど大丈夫。
 あの子は水に愛されているしカトレアも元気だった」
「ありがとう、アーシャ」
 カトレアのお腹が大きくなってからは、彼女の治療とは別にアーシャが精霊魔法を使い、水の精霊と子供の様子を観察してリシャールへと報告していた。万が一カトレアと同じ様な症状を呈した場合でも、発見が早ければ軽い治療で済ませることが出来るはずだった。
「リシャール」
「ん?」
「空の陸地にはわたしも行ったことがない。
 どんなところ?」
「僕も行ったことがないからなあ。
 白い崖が続いていて、とても綺麗だと聞いているよ」
「そう」
 アーシャの同行は大きさが大きさだけに難色を示されるかと思ったが、先に問い合わせたところリシャールを乗せてアルビオンへと向かうフネは戦列艦であり、特に問題とはされなかった。元から竜騎士を数騎搭載してもびくともしない戦列艦であるからこその余裕であった。
 もちろん、親書一通を届ける使者の為だけに、数百人もの乗員を擁する大型の軍艦を宛うことには理由がある。外交上、格式や国力を下に見られないようにすることは特に重要であった。単なる先触れや私的な訪問ならばそれこそ千差万別であったし、火急の使者は例外としても、国王に謁見をするような公式の使者では、相手国を軽んじていると見られても困るのである。他にも、答礼砲を返す場合に、砲門数があまりに少ないといらぬ問題が起きるという実際上の問題などもあり、通例としてフリゲート以上の軍艦を用いることが多かった。
「次はカトレアも子供も一緒に、みんなで行けるといいなあ……」
「きゅい」
 遠く見えてきたトリスタニアに目を向けながら、リシャールは近い将来に叶うであろう光景に思いを馳せていた。

 王都へと到着したその日は、祖父の屋敷へと挨拶やアルビオン行きの準備に潰し、翌日、リシャールは予定通り王城へと向かった。多少の緊張はあったが、何度も足を運んだことがある場所なので、以前ほどの圧迫感はない。
「子爵リシャール・ド・セルフィーユ、汝を王政府特使に任じアルビオン王国への訪問を命ずる」
 特使の任命式は、外務卿他数名を従えたアンリエッタによって行われ、リシャールは親書とともに羽根飾りのついた職杖を授けられた。同じ職杖とは言っても、終身制である元帥に授けられる元帥杖とは重みも異なるし、使者の職杖は無事に役目を終えて職を解かれると返納されるが、勅命による任官の証であることに変わりはない。
 リシャールは畏まって任命式の終了を待ち、そのまま別室に移動して同行者との顔合わせや予定の確認を行った。
 もっとも、アルビオン国王ジェームズ一世への謁見と親書の手渡しを除けば、リシャールには大きな役目は振られていなかった。視察や会食への参加は予定されていたが、会談や協議は同行する王政府の官吏が全てを引き受けることになっている。リシャールは使節団のお飾りとして、予定を過不足無くこなすことのみが要求されていたが、その点についての不満はない。余計なことに首を突っ込まないで済むことは、むしろありがたかった。
「セルフィーユ子爵様、姫殿下がお召しです」
 打ち合わせがあらかた終わった頃、いつぞやのように侍女が呼び出しを告げに来たので、リシャールは中座を詫びて王城の奥向きを訪ねた。
「リシャール、お久しぶりね」
「はい、姫殿下もお変わりなく」
 アンリエッタ姫とは園遊会以来だ。カトレアの近況など、雑談をしばし交わす。
「そうそう、今日リシャールを呼んだのはね」
「はい」
「アルビオンへと、一緒に持って行って貰いたいものがあるのよ」
 杖が一つ振られ、飾りのついた手紙がリシャールに預けられた。
「こちらの手紙は、その、ウェールズ様にお渡しして戴けるかしら?」
 ちらりと見れば、僅かに頬を赤らめるアンリエッタの様子から、どうもそう言うことらしいなとあたりをつける。
「はい、必ず」
「ええ、お願いね」
 照れるアンリエッタは微笑ましくもあるし、ウェールズの人柄なども知っているリシャールとしては応援したい気分ではある。しかし、大国の王位継承者同士の恋愛ともなれば、身分差はなくとも自分とカトレア以上に障害が大きいのではないかとも思うのだ。
 次代の王位を含む継承権一つとっても、少し考えただけで取り扱いの難しい問題が浮上しそうなことは、中央の事情や社交に疎いリシャールにも分かる。一地方諸侯である自分でさえ、大きな影響を受けそうだ。
 王宮を辞したリシャールは帰りの馬車の中であれこれ考えていたが、目の前の役務を無事に終えることが先かと頭を切り換えた。
 幾ら考えても、そのことについて黙っておく以外に、具体的な方策が思い浮かばなかったせいでもあった。

 翌日、少し早い昼食を摂ってすぐに別邸を後にしたリシャールは、王都から数リーグの近郊にある港へと向かった。
「ああ、あれかな?」
「きゅ」
 さほど大きな港ではないせいか、商船に混じって一隻だけ係留されている戦列艦が、一際威容を誇っている。おそらくあれが、リシャールが乗る予定の『クーローヌ』号だろう。
 アーシャには邪魔にならないよう荷役場の隅に下りてもらい、歩いて『クーローヌ』号の係留された桟橋を訪ねる。
「領主様」
「お疲れさま、アニエス」
 メイド服を着たアニエスは、律儀にも桟橋の下で待っていた。それらのやり取りを見ていた衛兵は、先触れしてきますとリシャールらに敬礼し、桟橋の階段を駆け上がっていった。
「荷物も土産も、予定通り積み込まれています。
 それから、王政府の方々は会議が長引きそうなので、少し遅れるとの連絡があったそうです」
「じゃあ、少しはのんびり出来るかな」
 随員の人選は皆の頭を悩ませたのだが、警備隊長であるジャン・マルクが随行を外されたのには、もちろん理由がある。鍛え上げられた肉体を持つ成人男性である彼では、仮に執事の格好をさせたとしても同席が許されにくい場面が多いのだ。
 その点アニエスならば、お付きのメイドとして扱うことで角も立たずに連れ歩けるし、腕も立つから護衛としても申し分ない。本人はメイドの格好に慣らされていくことが不服のようであったが、カトレアにお願いをされては頷くしかなかったようだ。こうした経緯の元、長めのスカートの下にサーベルと短銃を隠し持つ物騒なメイドが誕生した。
 今回は他に、セルフィーユ家立ち上げよりヴァレリーの補佐を続けてきたフェリシテ、城で働く二人の水メイジのうちの一人であるジネットと、二人のメイドが同行している。メイドが本業ではないアニエスはともかく残りの二人は本物の侍女であり、従者経験を持つリシャール自身も手の掛からない主人であったから、二週間の旅程でも問題はないとヴァレリーらは太鼓判を押していた。
「ようこそ、セルフィーユ子爵閣下。
 自分は『クーローヌ』艦長、ジェフロワ・ド・フーレスティエであります」
 三十代半ばと思われる艦長の出迎えを受け、リシャールは艦上の人となった。荷物などはジネットらの手配によって既に積み込まれており、後はアーシャを乗船させればリシャールの準備は整う。
「抜錨の時刻は現在のところ、未定であります。
 使節団随員の到着を待つよう命令を受けておりますので、それを待っての出航となります。
 閣下、お暇でしたら艦内の見学などいかがです?」
「ええ、是非お願いします。
 それから艦長、私の竜はどうしましょう?
 今は下で待たせているのですが……」
「こちらも準備は整っております。いつでもどうぞ」
 リシャールはアーシャを呼びに行き、『クーローヌ』の船首楼手前の甲板に降り立った。この部分は竜甲板と呼んでいいものか、オーク材で組まれた上甲板の上から、更にもう一層同じ厚さのオーク材を組んで強度を持たせてあり、張り替えも考慮してあるそうだ。
 アーシャが舷側から首を伸ばして下方をのぞき込んでも船体に動揺一つないあたり、流石は戦列艦であるとリシャールは頼もしく思った。
 それでも彼女にはなるべく大人しくしているように言い聞かせてから、先ほどフーレスティエ艦長から紹介された士官候補生を案内に、『クーローヌ』の見学を開始する。
「閣下、本艦は三十二リーブル砲三十八門、二十四リーブル砲三十門他、合計九十門の砲を有する二等戦列艦であります」
 『クーローヌ』は、先日園遊会場にも現れた御召艦『ラ・レアル・ド・トリステイン』と略同型で、若干船体が長く造られているそうだ。乗員は七百余名にも達する大型艦で、空海軍の主力艦隊の一翼を担っていると言う。
 リシャールも、商船ならばセルフィーユへと入港する百メイル級の大型船でも見慣れているが、先日の園遊会で見学した各国の軍艦を思い出しながら、やはり構造からして商船とは違いすぎるなあと、改めて『クーローヌ』の砲甲板を見回した。
 上層、中層、下層と三段になった砲甲板のうち、リシャールが今案内されているのは三十二リーブル砲が並んだ下層の砲甲板である。比較的新しい砲が並んでおり、砲と綱索と構造材の間を水兵達が忙しそうに走り回っていた。
 三十二リーブル砲は、戦列艦の持つ大砲の中では主力砲として標準的な口径だが、これだけ大きいとさぞや製造にも手間暇がかかるだろうと嘆息するリシャールである。調達の費用も、その大きさに見合うものだろう。セルフィーユの工場では二十四リーブル砲の製造が限度で、小型である四リーブル砲でさえ月産数門が精一杯であった。ため息も仕方あるまい。
「どうかなさいましたか、閣下?」
 無言で眺めるリシャールに、案内の士官候補生が不安げな視線を向けてきた。何か機嫌を損ねたのかと思ったらしい。
「いや失礼、大丈夫です。
 ……大砲の並ぶ姿を見て、先日ラグドリアン湖で行われた園遊会場で、『メルカトール』号が礼砲を放っていた様子を思い出していたんですよ。
 空砲だと頭では理解していながらもなお、とてつもない迫力がありました」
「そうでありましたか。
 空海軍旗艦たる『メルカトール』号には、本艦よりも更に大きな三十六リーブル砲が搭載されております。
 三十二リーブルと三十六リーブル、一見僅かな口径差の様でありがらも、威力は段違いであります」
 この三十二リーブル砲は、一門何エキューぐらいするんでしょうか?
 ……という質問を飲み込んで、それらしく聞こえる言い訳を士官候補生に返す。非常に興味はあるのだが、流石に下世話過ぎて口には出せない。
 本艦は間もなく出航しますと別の士官候補生が呼びに来るまで、リシャールは三層ある砲甲板をうろうろとして、各種口径の大砲を眺め続けた。






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