メルルのアトリエ アーランドの妹錬金術士
閑話その二 頼れる妹




「おっ、こんなところにいたんだな」
「あっ、ジーノさん」
 ネーベル湖畔の畔で腰を下ろしているナナを見つけた。

「そこで寝るなよ?落ちても知らないからな、なんかそこぶくぶくしてるし」
「あははっ、気をつけます・・・ぶくぶく?」

 湖を見るとぶくぶくしているのが見えた。

「あっ、これって・・・採取しなきゃ!」

 ナナはそう呟くと、慌ててロバのところまで採取瓶を取りに行った。

 ナナ・スウェーヤ

 数日前、ギルドの受付でちっちゃい姉ちゃんに紹介された10歳の女の子。
 幼馴染であるトトリと同じ師匠に教えを受け、錬金術士を目指しているようだ。

 ちっちゃい姉ちゃんから、最低限自分を守る実力があると聞いていたため、10歳であるが問題ないだろうと思った。
 実際、冒険者になったばかりのトトリ(当時13歳)より数倍しっかりしていることが見て取れたからだ。

 しかし、その判断は丸1日も経たずに覆された。いい意味で。
 1つ目はロバを連れていくといったことだ。
 なぜと思ったが、考えれば当たり前のことなのだ。
 子供であることを理解し、移動中の体力や採取した素材の持ち込みを十分に発揮している。
 また、依頼の期限が歩いて往復ギリギリだったが、ロバを使うことで結構日程を短縮した。
 俺が、トトリと旅した時は全く思いつかなかった。トトリも体力なかったし、お金がかかっても使えばよかった・・・

 2つ目は道中、「旅人の街道」での話だ。
 耳ぷに(ぷにぷにに耳が生えたようなもの)やアードラ(鳥型モンスター)が出現するが、錬金術アイテムを惜しむことなく消費。
 そもそも錬金術アイテムがどれくらい有効なのかを知りたがっていたため、今回の旅に同行しているわけでもあるが。
 耳ぷにが複数現れたら、クラフトで殲滅。アードラが現れてもフラムでドカン!
 実際、一撃で倒せなかったとしても弱ったところを俺が軽く捻ってやるだけだから、無傷で片づけられた。
 腕力がないことを知っているため、教えてもらった人形による攻撃も最低限。
 まぁ、アイテムがあるからできることなんだけどな。

 後、道中話していて気付いたのだが、誰がこの子を10歳と見るのだろうか。
 俺がもともとそんなに頭が良くないため、より分かることなんだが、考えること、話すことが絶対に俺より難しい。
 話を聞いたところ、アールズのお偉いさんとも仲良しなんだと・・・
 本人は同年代の友達がいなかったからって言っているが、そういうものなんだろうか。
 まぁ、姉の話をするときは年相応のような気もするけどな。


 ロバから採取瓶を持って戻ってきたナナが、さっそくその泡立っている湖の水を採取し始めた。

「それも錬金術のアイテムなのか?」
「はい。そのまま「泡立つ水」ですね」
「ふーん。トトリと来た時は、そんなものに目もくれなかったけどなー、ちなみにそれ使って何ができるんだ?」
「えと、液体なので結構いろんなものに仕えると思いますが、強いて言えば「エアドロップ」でしょうか」
「エアドロップ?」

 聞いたことのないアイテムだ。

「はい、まぁ、見た目はたぶん舐められる方の飴なんですけど、舐めてる間、水中で呼吸ができます」
「ほほぅ、それはすごいな」

 トトリは知っていたのだろうか?水の中なら潜る人も少ないため、貴重な素材も採れるだろうに。

「ジーノさんの修行にもいいかもですね。普段修行をしているのか、まだよく知りませんが、水中で身体を動かすのって、すごく筋肉使うと思いますよ」
 ニッと笑いながら、ナナがそんなことを言ってくる。
 普段修行する際に泳いだりもするが、水中に入ったまま地上と同じ修行をする。確かにそんな修行もいいかもなー。

「だったらそのエアドロップは、ナナに今度依頼しようかな」
「えっーーー!まだ錬金術のレベルが低いので、トトリお姉ちゃんの方がいいのでは?」
「いや、今トトリってトトリの母ちゃんが帰ってきていてな、冒険者休暇中なんだよ」

 幼馴染のトトリの母ちゃんって、凄腕の冒険者だったけどずっと行方不明だった。
 それが一ヶ月前にふらっと戻ってきたんだよな。
 トトリはもちろん、トトリの父ちゃんも姉ちゃんもすごい喜びよう。
 家族で過ごすんだって、二ヶ月間冒険者休憩する宣言していた。
 トトリは、材料さえあれば錬金術のアイテムはいつでも作ってくれるっていてたけど・・・

「それに、せっかく錬金術士を目指しているんだ。最終目的はもちろんだが、直近の目標もあると、後少しだってがんばれるだろ?」

 ニッと笑いかけると顔を赤くして、背けられた。

「じ、ジーノさんがそれでいいなら、その依頼受けさせて頂きます。あ、でも本当に実力が付いていないので、まだまだ先のことですよ?」
「あぁ、構わないさ。ナナならすぐにできそうな気もするしな」

 それから、泡立つ水を一緒に採集し、ロバのところに戻った。
 既に夕方になっており、夕飯は、途中で倒したアードラの肉を適当に食べればいいかと思ったが、なぜかナナが調味料を持っていたため、美味しく頂くことができた。


「さて、日課を始めるか」

 毎日寝る前に、修行と言うほどではないが身体を動かしている。
 俺自身、身体を動かすことは嫌いじゃないが、身体が衰えるのを防ぐためでもある。
 ここ数日ナナのおかげで戦闘に余裕があるしな。

 さっきまで、ナナも俺の近くで貸した木剣を使い、素振りをしていた。
 これもここ数日の日課だ。
 ナナは、剣を振ったこともなかったらしい。
 俺の戦闘を見て何を思ったのか、剣の振り方を教えてほしいと言ってきたのだ。
 たぶん、今後も剣を振ることがないだろうが、護身用のナイフを振る時に役に立つだろうし、変な癖をつけるより俺が教えた方がいいだろうしな。
 俺の時なんか、師匠がポカポカ殴るしなー。まぁ、今なら大事なのが分かるからいいんだけどな。

 5分木剣を振って、5分休憩する。それを3回ほどやると今日は終わらせた。
 本当は護身用のナイフでやった方がいいんだが、まだちょっと危なっかしい。
 木剣は、長さも重さもナイフと違うが、型だけでも覚えさせられたらいいほうだろう。

 最後の方は、ふらふらになりながら、素振りをしていたため、既にぐっすり夢の中だ。
 確かに、同年代だと体力があるかもしれないが、それもで少々と言ったところだ。
 まだ、杖を持ってなかったが、杖を持って戦うならミミに槍の振り方を参考に聞いた方がいいかもな。

「むにゃー、お姉ちゃん、もっとー」

 傍で眠っているナナが、寝言を言った。

「何の夢を見ているんだか」

 俺は苦笑し、ナナの頭を撫でてやる。
 にへら笑いを浮かべるナナを見て、ふと考える。
 俺にも妹がいたら、こんな感じで面倒見るのだろうか。
 妹分であるトトリがいるが、どちらかと言うと幼馴染といった部分が大きい。
 それに、ナナが妹だったとしても、ここ数日すごく賢いことを知っている。



 かわいがるだろうけど、妹よりもバカだと威厳がないなー・・・








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