メルルのアトリエ アーランドの妹錬金術士
冒険者のランク




「ナナ、そっちにいったぞ」
「はいっ、いきます、ドナーストーン!」

 こちらに向かってきている近海ペンギンに向かって雷が落ちる。
 もともと体力のないペンギンにはオーバーキルだったようで一撃で倒す。

「ナイス、ナナ!」
「ありがとうございます、ジーノさん」

 周りに敵がいないことを確認し、目的のものを採集するため、採集用ナイフを取り出す。  ジーノさんは慣れた手つきで近辺ペンギンから「やわらかい毛」を採っていく。
「おし、依頼達成だな。ナナはいらないのか?」
「布素材で使えるので余った分だけ頂きますね」

 私は、ジーノさんから、余ったやわらかい毛を受け取りながら依頼について思い返した。

 ・・・・・
 ・・・・
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 ・・
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 約2週間前のフラムを作成した後、ロロナお姉ちゃんの指導の元、フラムとドナーストーンの調合に励んだ。
 雷属性の攻撃アイテムであるドナーストーンは、震える結晶と火薬素材、中和剤から作ることができる。
 火薬素材は、フロジストンしか持っていなかったため、泣く泣く使用し、簡易錬金術で作成した。

 やっぱりかき混ぜ方が結構難しいと思う。
 ロロナお姉ちゃんの擬音はともかく、かき混ぜ方に注意することは大事なのだ。
 モノによっては早くかき混ぜたり、遅くかき混ぜたり、抑揚をつける必要があるものもある。

 4日間、フラムとドナーストーンを繰り返し作成した。
 そこでギルドから依頼がかかりロロナお姉ちゃんが外出することになった。ホムちゃんと一緒に。

 もちろん最初断ろうとしたみたいだけど、大丈夫だよと言って送り出したのだ。
 実際のところ、低ランクアイテムだが錬金術アイテムを納品しており、そこそこお金には余裕がある。
 ロロナお姉ちゃんは少々渋っていたけど、すぐ帰ってくるからと言って出かけて行った。

 私はと言うと精密錬金術を使って再びフラムとドナーストーンを作り始めたのだ。

 そうそう、量を測って行う錬金術を精密錬金術、錬金釜のみのほうを簡易錬金術って言うことにしたの。
 まぁ、簡易錬金術と言ったものの実際は結構難しいけどね。見た目混ぜてるだけだしいいかなって。

 ドナーストーンの作り方はほとんどフラムと一緒だ。
 震える結晶と火薬素材をそれぞれ粉末状にし、さらにそれに中和剤を加えたものをドナーストーンの型に流し込み、固めるのだ。
 それが7日前のことだ。

 素材もなくなり、合わせて10セットのフラムとドナーストーンがあり、ふとどれくらい威力があるのか気になった。
 そう、試したくなったのだ。
 ロロナお姉ちゃんもホムちゃんもいなかったため、ギルドに向かいクーデリアお姉ちゃんに相談したのだ。

「あまり危険なことはしない方がいいのだけど、いい依頼があるわよ。ちょうどランクもIRONになったしね」

 そう言うと、クーデリアお姉ちゃんはフィリーお姉ちゃんのところに依頼をとりに行った。

 そうそう、ギルドランクについて説明しておくね。
 低ランクからいうと

 GLASS(ガラス)(最低ランク)

  ↓

 IRON(鉄)

  ↓

 BRONZE(銅)

  ↓

 SILVER(銀)

  ↓

 GOLD(金)

  ↓

 PLATINUM(プラチナ)

  ↓

 DIAMOND(ダイア)

  ↓

 GALAXY(ギャラクシー)(最高ランク)

 ギルドランクによって依頼の難易度も変わってくるけど、錬金術士にとって致命的なのは行ける場所が限定されていることだ。
 アーランドとアランヤ村を中心に行けるところが限定されており、ランクが上がるごとに遠くまで行ってもいいよと認可が下りる。
 もちろん、強力なモンスターが出て危険なためであるが、錬金術の素材は遠ければ遠い(未開地な)ほど、珍しい素材や同じ素材でも品質がいいものが多い。

 私のギルドランクは上がらないけど、納品し続けることによってIRONランク相当になっているみたい。
 IRONって言ったらアーランドだと何処までいけるんだろ?

 カバンに入っているアーランドの地図を取り出そうと思ったけど、クーデリアお姉ちゃんが戻ってきた。

「ちょうどね、やわらかい毛っていう糸素材の納品依頼が入っているんだけど、ちょうどあんたの後ろのやつに依頼しようと思ったのよ」

 そう言われて振り向くと、イケメンさんが一人立っていた。

「よう!依頼されたモンスターの討伐終わったぜ」
「なかなか早かったわね」
「雑魚だったしな」

 そう言って、ジーノさんは私の方を見てくる?
 な、なんでしょう?変な格好してないよね?

「その服、錬金術士?」
「えぇ、そうよ。トトリの妹弟子なのよ」
「へぇー、俺はジーノ。冒険者だ、よろしくな!」

 青年はニカッと笑って私に向き直る。

 ジーノ・クナープ

 トトリお姉ちゃんの幼馴染。
 「トトリのアトリエ」では世界一の冒険者になることを夢見て飛び出し、トトリお姉ちゃんたちと一緒に冒険者への道を歩み始めた。
 今では話題の若手冒険者だ。
 しかも二十歳前でかなりのかっこいい。
 何このイケメン!中身が伴ってないようですごく残念みたいだけど。

「あっ、ナナ・スウェーヤです。アールズから錬金術の勉強をしに来ました」
 とりあえずぺこりと挨拶しておく。

「それで、やわらかい毛っていったら、ネーベル湖畔か?」 「えぇ、それでね。この子もつれていってほしいのよ」
 ネーベル湖畔は、アーランドから北に行ったところにあり、歩きで往復2週間ほどの場所にある。
 確かに護衛も兼ねて行ってくれるならうれしいけど・・
「あぁ、別にかまわないけどな。あの辺の敵になら守りながらでも問題ない」
「なら決まりね」
「えと、本当にいいのでしょうか?」
「バカだけど腕だけは確かよ。それに錬金術の素材にもそこそこ詳しいから道中も役に立つわよ」

 そんなお買い得っ!みたいに言わなくても・・・
 それから、出発はジーノさんも私もいつでも問題ないということで次の日から出発。
 また、足にまたロバを借りていくことを伝えた。




 片道1週間の道を3日で進み、途中モンスターにも襲われても特に問題とすることなく、ネーベル湖畔にたどり着き、冒頭に戻る。

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 ・・
 ・・・
 ・・・・
 ・・・・・

「やっぱり錬金術士がいるのといないのではだいぶ冒険も楽だな」
「そうですか?」

 近辺ペンギンから採取した後、休憩中にジーノさんがそう呟いた。

「あぁ、錬金術のアイテムが攻撃にしろ回復にしろ便利すぎるしな」

 トトリお姉ちゃんと冒険を行っていた時の話だろう。
 高価なものはまだ作成できない私でも、今回目的であるフラムとドナーストーン、それから売らずにとっといたけど使う機会がなかったヒーリングサルブを持ってきている。
 私が作ったヒーリングサルブも品質も効果もそれほど高くなくても、即効性のある薬と言うことで一般からするとそこそこ高価なのだ。
 また、フラムもドナーストーンもこのあたりのモンスターには、オーバーキルしてしまうくらいの攻撃力がある。

「それにしても、初めてドナーストーン使いましたけど、結構すごい威力ですね」
「あぁ、俺も使ったことあるけど、近辺ペンギンみたいに雷属性に弱い奴には特にな」

 ゲームでよく知られている属性。
 この世界では、一応火、氷、雷、氷の属性がある。
 フラムは火属性攻撃、ドナーストーンは雷属性攻撃だね。

「さて、採取はこのあたりまでにしておくか」
「はーい」

 周りに近辺ペンギンもいないようなので、各々休憩することになった。

 それにしても、ロロナ時代と違ってほんとペンギンしかいないなー。
 私は、湖畔の傍まで来ると、湖の端に小さく見えるペンギンを見ながらつぶやく。
 島魚(クジラの小さい版?)やイグアノス(小さいドラゴン?)がいたはずだ。
 イグアノスは小さいといってもさすがドラゴン種。駆け出し冒険者がかなう相手ではない。
 冒険者に駆逐されたのかなー・・・いたとしたら私なんか連れてこられなかったかもだけど。


 私は、湖の畔で気持ちのいい風を受ける。アールズ出身だけに久々の自然は気持ちいい。
 ポカポカ陽気で眠くなりそうな頭をどう起こせばいいのか迷いながら、ネーベル湖畔をボーっと眺めながら過ごした。







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