メルルのアトリエ アーランドの妹錬金術士
ある日の日常A執務室へと歩いていると思わぬ人物に遭遇した。まぁ、お城の中だし全く合わない人ではないけど。 「こんにちわ。国王様」 「おや、ナナ君。今日も元気がいいね」 挨拶したのはこの国の王様。デジエ・ホルストナ・アールズ そして、メルルお姉ちゃんのお父さんだ。 「視察ですか?」 外行きの服を着ているのでたぶん、今戻ってきたところなのだろう。 お付きの人が2人、護衛が2人後ろに控えている。 「ふふっ、難しい言葉を知っているね。ハルト砦にまで少しね」 メルルお姉ちゃんの親友の妹ポジションである私もある程度面識がある。ここ1年ほどお姉ちゃんについて城にまで来るようになったら覚えられたんだよね。 ハルト砦と言えば、ゲームだと錬金術で修復しないといけない程、ボロボロだったよね あと地味にモンスターも出現するんだよね・・砦とはいえ放置し過ぎではないだろうか。視察の目的はわからないけど、砦の修復ならどう見ても遅いよね? 「メルルのところかな。今日は城の中にいると思うが」 「メルルお姉ちゃんは、今お部屋でお姉ちゃんとお話してる!私、ルーフェスお兄ちゃんとライアスお兄ちゃんにクッキーを持っていくところなの!」 肩掛けのバックをポンポンと叩きながら言うと、その行動が微笑ましたかったのか、王様は微笑んだ。 私はバックの中から小分けにしたクッキーの袋を一つだけ取り出し、王様に渡す。 「お姉ちゃんが私の誕生日で作ってくれたの!国王様にもおすそ分けっ!」 「おや、いいのかい。とてもいい匂いがする」 「とっても美味しいよ♪」 バックから取り出した袋からクッキーの甘いにおいが漂いだす。 そう言えば、王様に簡単に物渡したけど大丈夫なんだっけ・・?普通毒見役とかいそうな気もするけど、小さい国だしよくわかんないや。 「後で、美味しく頂くよ。ルーフェスにもずいぶん苦労かけているからね。休憩のついでに癒してあげるといい」 国王様は私の頭を3度ほど撫でると、お付きの人と部屋に戻って行った。だいぶお疲れのようだったけど大丈夫かな・・? ハルト砦って馬車でも2,3日かかりそうだけど。。 私は国王様と別れて、目的の場所執務室へとたどり着いた。 コンコン 「はい」 扉を叩くと、中からルーフェスお兄ちゃんの声がかかる。 中に入ると、ルーフェスお兄ちゃんとやはりライアスお兄ちゃんがいた。 「おや、ナナでしたか」 「こんにちわ。ルーフェスお兄ちゃん!ライアスお兄ちゃん!」 お辞儀をして、お兄ちゃんの近くまでやってくる。 しかし、相変わらずこの部屋の書物の量がすごいな。 国政の情報がたんまり詰まっているのだろう。 『メルルのアトリエ』が始まるころには、この国で知らないことがないといわれるくらいになるしね。 「今日はどうかしましたか」 ルーフェスお兄ちゃんは筆をおいて改めて私に顔を向ける。 ルーフェス・フォールケン 若いながらアールズ国の国政を任されている。遠くない未来ほぼ一人で国政を任されることになるのだろう。 というか、有能すぎてむしろこの人にしかできないのだ。 しかし、それも未来でのお話。いくら有能でも初めからなんでも思ったように行くはずがないしね。 少々顔に疲れが見え隠れしている気がする。 「お兄ちゃん達にお姉ちゃんが焼いたクッキーを持ってきたの!」 肩掛けのバックをまたポンポンと叩いて見せる。 「ふむ、でしたらちょうどきりがいいので休憩にしましょう。ライアス、お前もちょっと休憩にしなさい」 そう言って、ルーフェスお兄ちゃんは傍らにいるライアスお兄ちゃんに声をかける。 ライアス・フォールケン ルーフェスお兄ちゃんの弟で、ライアスお兄ちゃんは崇拝と言っていいほどルーフェスお兄ちゃんに懐いている。後、お姉ちゃんとメルルお姉ちゃんの幼馴染だね。 近くに行ってみると算数のお勉強をしていたようだ。ルーフェスお兄ちゃんが傍ら教えていたのだろう。 「あ、ライアスお兄ちゃん、ここ間違ってるよ」 閉じようとしていたノートの箇所を挿して言うと真っ赤になって無言で閉じちゃった。 4歳も年下の女の子に指摘されて恥ずかしかったのだろう。しかし、この世界って文字は読めても書けたり計算できる人はすごくまれだから、ちょっとした計算でもすごいんだけどね。 「ふむ、ライアスは今と同じような問題を後で反復しましょうね」 「あ!」 ルーフェスお兄ちゃんがそんなこと言って机の上を整理しようとした時、見てしまって声をあげてしまった。慌てて口を閉じたけど、お兄ちゃん達はいぶかしんで私を見ている。 さっきも言った通り、計算できる人って結構貴重なのだ。 だけど今ルーフェスお兄ちゃんが片付けようとしてた書類に間違った計算をしているのを発見してしまったのだ。 普通の5歳児なら分かるはずないんだけどね。大事な書類みたいだし言ってあげたほうがいいかしら・・ 「る、ルーフェスお兄ちゃん、ここも間違ってるよ」 教えてあげるとルーフェスお兄ちゃんはギョッとして書類を確認する。 「ほ、本当ですね、わかるのですか」 「うん!」 といったけど、その話は終わりと私はバックの中からクッキーと水筒を取り出しテーブルの上においていく。テーブルの上に使ってないカップが二つあったのでそれにお茶を注いでいく。 いぶかしむルーフェスお兄ちゃんの視線が気になるけど無視無視。私は片付けが終わったライアスお兄ちゃんにカップを渡す。 「ありがとう。ナナ」 ライアスお兄ちゃんはカップを受け取った反対の手で撫でてくれる。 「はい、ルーフェスお兄ちゃんも」 ルーフェスお兄ちゃんにもカップを渡そうとすると慌てて資料を汚れない場所において受け取った。 クッキーを一欠けら口に入れ、それからカップにつけてルーフェスお兄ちゃんは大きくため息をする。 といってもライアスお兄ちゃんが気づかないほどだったけど。やっぱり疲れているんだろうなー・・・ 「そういえば、先日誕生日だったのですよね。姫様が何を送ろうか相談に来ましたが」 うわぁ、あの服の贈り物ってルーフェスお兄ちゃんと考えたんだ・・・ 「最近本をほしがっていると噂を耳にしました」 「うん、家にある本は粗方読んじゃったから」 この世界の本は高い。 現代日本を知っている私から見ても、印刷等の技術がないため、すべて手書きになってしまうことが問題なのだろう。 「あの奥の棚には、趣味で置いてある本が数冊ありますので何冊かあげましょうか。私はすべて読んでしまったので」 部屋の扉に近いところにある本棚を指す。 「といっても、あなたが読めないような本しかないかもしれないですが」 せっかくなので見せてもらうために本棚の前に移動する。 確かに難しい本ばかりですが、一応中の人的にはルーフェスお兄ちゃんよりも年食っているため読めなくはない。 む。 思わず手に取ってみた本があった。 なんでこんな本が・・あり得ない。 「あーそれは、見たことない文字で記載されてましたが、絵が綺麗だったのでちょっと暇なときに解読しようかと思って持ってきた本なんですよ」 いつの間にか、後ろに立っていたルーフェスお兄ちゃんが声をかける。 「一応、簡単そうな本だけしか持ってきてないのですが、未だに読めませんね」 苦笑して同じような本を棚から取り出す。 「えと、同じような文字で記載された本ってたくさんあるの?」 「そうですね、趣味でこの手の本を集めていますよ、興味がありますか?」 私は小さく頷いて、本に視線を戻して考えてみる。 この時ルーフェスお兄ちゃんが鋭い視線で見ていたけど私は気付かなかった。 私の持っている本の題名は「白雪姫」、ルーフェスお兄ちゃんが持った本の題名は「ももたろう」。 日本語で記載された絵本なのだ。 「でしたら、今度うちに招待しましょう。他の本も見せてあげますよ。そこにある本と合わせてほしい本を少し上げましょう」 「ほんとう?!」 勢いよくルーフェスお兄ちゃんに振り返る。 「ええ、明後日くらいには時間が空きそうなのでその時にでも」 ちょうど明日はお姉ちゃんと買い物だったのでちょうどいい。 ライアスお兄ちゃんが厳しい目で私を見ていたのに気付いたけど無視。 っていうか私に構ってるからって一応年下なんだから嫉妬なんかしないでよね! そんな私をルーフェスお兄ちゃんが鋭い目で訝しげに見ているのに、白雪姫の本を凝視した私は気付いていなかった。 前へ 目次 次へ |