ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第七十三話「小さな大砲」




 ゲルマニアから大砲製造のための機械類が到着してひと月弱、キュルケはとうに帰国したが、居残ったゲルマニア人技術者からの指導を受けて、難産ではあったものの最初の試作品が完成した。
 とは言っても、フロランが設計した新型砲ではない。ゲルマニア式野砲の設計図を元に製造された、従来型の四リーブル砲と十二リーブル砲である。これらは工員の機械操作の習熟を目的として作られたもので、刃鋼も使用しておらず、従来型のものを過不足無く製造できるか否かということに焦点がおかれていた。
「領主様、結果が出ました。
 射程の方は、ほぼ仕様通りです」
「大丈夫そうですね」
 今は演習場に運び込まれ、お披露目も兼ねて、リシャールらを前に土塁を撃って破壊力を調べている最中だ。先ほどまでは砲を海に向けて発射し、射程距離を測っていた。
「一応、今日の資料は別にまとめておいて下さい。
 新型砲と製造期間に余りにも大きな差が出るようなら、こちらの方も平行して製造する必要があるかも知れません。
 ……新型砲の耐久試射用の弾薬は間に合いそうですか?」
「はい、来週には到着する予定です。
 順調に試作が進んでも完成は月末の予定ですので、問題ありません」
 刃鋼を使用した新型砲の最初の一門は、砲身や各部の耐久性を調べるために、破損するまで撃ち続けることになる予定だった。数百発分の砲弾と火薬は、既に注文を出してある。
 また、機械類が早期に到着したおかげで、本試作の前に従来型砲の製造で経験を得ることが出来たにも関わらず、試作砲の完成時期はずれ込むことなく、今月中には完成する予定だった。フロランは今もリシャールの隣にいたが、既に新型砲の鋳型は製作が始められているし、機械を遊ばせておくのも勿体なかろうと、更なる習熟も兼ねて従来型砲の製造も平行して進められていた。今の時期に工員達の得る経験を考えれば、捨て値で売ってもお釣りがくる。
 工作機械は大きな動力風車と切削機、それに溶鉱炉と坩堝、数種類の鋳型の原型などが一組になっており、溶鉱炉と坩堝の容量から二十四リーブル砲までの製造が可能とされていた。それ以上の大型砲の製造にはもう一回り大きな設備が必要で、当然予算も一回り大きくなるとのことだったから、諦めざるを得なかったのだ。設置予定場所の近くに砲身に焼き入れや焼き戻しをする為の砲炉を作ったり、工場内を新たに地均しして固定化をかけたりと、間際になって慌てるようなこともあったが、今は概ね落ち着きを取り戻していた。
 ここまで大がかりなものとなるとリシャールにも意見のしようがなく、『よきに計らえ』式にフロランに問題を押しつけることとなっていたが、これは仕方のないことだろう。
「ともかく、事故には気を付けて下さいね?
 特に、工員達が安全確認を端折ったりしないように、よく教え込んでおいて下さい。
 私の方からも、令達を出すべきかもしれませんが……」
「はい、溶けた鉄と火薬は、私にとっても恐れるべきものです」
 真剣な表情で頷くフロランに、流石にそのあたりまでは改めて言い含めるまでもないかと、頷き返す。砲と鉄については、当然ながらリシャールよりも彼の方が理解している筈だった。

 威力の方も概ね所定の性能が得られたことがわかり、リシャールとフロランは場所を武器工場の事務所に移し、今後の予定を再検討することにした。
「領主様、以前も申し上げましたように、機械の能力や工員の未熟さから、当初は小口径砲でも月産四門が限度かと思われます。
 場合によっては、銃の製造に能力を傾けた方が、利益を得られるかと……」
「短期的にはそちらの方が良いかも知れませんね。
 工員を増やしたからと、急に生産力の上がるものではないでしょうが、考えておきます」
「台座の車輪や部品などは、今は領内や近隣の木工職人に注文を出してありますが、数量が多くなればリールや王都への発注も考えねばならないかもしれません」
 砲は概ね順調であったが、銃の製造にはしわ寄せが行っていた。マスケット銃と短銃、合わせて日産十丁ほどであった生産量は、慣れた工員を選んで専任としたにも関わらず、大砲に人手を取られて半分以下にまで落ち込んでいた。
 銃の在庫は、園遊会中に王都の武器商人へと卸し、ウェールズに試供品として提供したこともあって、現在二百丁程を保っている。最近では僅かながらにセルフィーユの店で売れることもあったが、ベルヴィール号のブレニュス船長が、ロリアンへ向かう場合の積み荷として選んでいく時に在庫を減らすことが出来ていた。
 そして銃砲を作ることがフロランの仕事ならば、それを売るのはリシャールの仕事であった。
 リシャールの考える大口の顧客として最も理想的な相手はトリステインの王軍だったが、未だ取引には至っていない。コネのあるルメルシェ将軍あたりに売り込めばよいのだが、残念なことがわかったのだ。
 ルメルシェの連隊は、最近装備を更新したばかりだったのである。『亜人斬り』を気前よく買い入れていた理由の一つでもあったから、リシャールとしては複雑であった。
 これは、王都宿舎より名を変えたばかりの王都商館よりもたらされた情報だった。どこか良い売り込み先はないかと、それとなく探させていたのである。結果としては残念だが、知らずにルメルシェを訪ねて行かずに済んだことも事実だった。
「そう言えば、フロラン殿。
 新型砲の性能は聞きましたが、製造の費用はどの程度になりそうですか?」
「概算ですが、野砲型の四リーブル砲で台座まで含めて、一門三百五十から四百エキューというあたりです。
 刃鋼の値段を少々高く見積もってはおりますが、各工程で必要な工員の人数や消耗品の概略が出ましたから、そう外れていることはないと思います」
「では……売値の方は、七百から八百エキューぐらいにしないといけませんね」
「従来品に比べてかなり高くなりますが、刃鋼を使うことで砲身の命数……寿命は従来品に比べて大幅に伸びますから、同等以上の価格でも需要は見込めると思います。
 海賊退治に従事する空海軍の……ああ、特に小型船などですが、威嚇の為に余計な弾を撃たざるを得ませんからね。
 数年とかからず、砲の更新をするフネもあると聞きます」
 リシャールもフロランから講義を受けるまでは知らなかったが、砲身の寿命は先ほど試射したような小口径砲で大体三百発から四百発前後、戦列艦に搭載されるような大口径砲では、百五十発も保てば極めて優秀とされていた。メイジが腕を振るってさえ、このあたりが限度なのである。
「領主様、私の方で空海軍の知り合いを当たってみましょうか?
 まったく知らないわけではありませんので……」
「無理をしない程度にお願いしますね?」
「ええ、もちろん」
「性能が向上しているとは言え、従来品より高いものを押しつけで売るのは、商いとしてはどうにも印象が悪くなりがちです。
 それに売り込み先が見つからなければ、王都の武器商人に卸してもいいでしょう。損益が出るほどではありませんからね。
 ……まあ、いつものように買いたたかれはするでしょうが」
 銃や砲に限らず、卸売りは一度に大量の商品を捌けたり、契約を結ぶことで一定期間に安定して商品を売ることも出来る。また、交渉次第では行く宛のない在庫を相手に押しつけることも往々にして可能であるが、卸商にも利益は必要であるし、彼らも税金を払わねばならず、在庫を抱えるリスクもあった。故に商品は、市価よりも安い価格で引き取られてしまう。
 だが、今のように小売りの相手まで自分で探さねばならないような状況では、利益は低くなろうとも選択肢の一つとして十分なメリットもあった。
「急いで売らないといけないほど追いつめられているわけでもありませんから、焦らずに行きましょう。
 ともかく今は、安定して生産を進められるようにお願いします」
「はい、領主様」
 畏まるフロランに頷き、リシャールは工場を後にした。今日は大砲の試射とあって、庁舎での仕事を後回しにしていたのである。

 書類に追い回されて一日の仕事が終わると、リシャールはアーシャに乗って城へと帰るのだが、早く帰れそうなときにはたまに寄り道をしていくこともあった。
 それなりに広い領地とは言え、庁舎のあるラマディエから一番遠いドーピニエでも竜のアーシャならば四半刻程度で到着する。領内ならば何処にふらりと立ち寄っても、日の落ちる前に帰城するなら、領主様行方不明と騒がれるほどにはならない。
 カトレアの顔が早く見たいと直帰することが殆どだが、領内の見回りも兼ねていたから、リシャールは最低でもひと月に一度ぐらいは各村に顔を出すことに決めていた。仰々しい視察などは客人のいる時に行う程度であるし、抜き打ち検査という訳でもないから、訪問する方もされる方も気楽なものであった。不満があれば話を聞くし、こちらから要望があれば口に出す。何もなければ、世間話をしてそれでしまいである。
「領主様!」
「うん、お迎えご苦労様」
 リシャールが今日降り立ったのは、大聖堂であった。村ではないが、リシャールにとっては領内でも無視し得ない場所だ。
 出迎えの少年が家臣の礼で畏まったことから、彼は併設されている学舎にて算術や礼法の基礎を学んでいる、セルフィーユ家の従者見習いだと推察された。正直に言えば、流石に家臣全員の顔を覚え切れていないリシャールである。家臣団に領軍、そして間接的ながらラ・クラルテ商会の雇用人まで合わせれば、数百人規模になるので無理もない。態度で判断せざるを得なかった。
「どうぞこちらへ」
「ありがとう」
 そのままクレメンテの元へと案内される。課業の最中であれば待つのだが、今日は大丈夫だったらしい。
「ようこそいらっしゃいました、領主様」
「クレメンテ殿、お久しぶりです」
 いつものように挨拶を交わし、部屋へと招き入れられる。
 クレメンテの、六十という年齢を感じさせない意志の強い顔は、いつものことながらリシャールを萎縮させるが、だからと言ってどうなるものでもなく、慣れるしかないかと内心で苦笑する。マザリーニや義父とはまた違った緊張が、彼との会談では常に要求されるのである。
 挨拶も兼ねて互いに近況を交わしてから、本題に入る。
「学舎の方はいかがですか?」
「概ね順調ですな。
 お預かりしている子供達も、皆元気で良きことです」
 感謝祭後に動き始めた学舎の基礎課程にリシャールが送り込んだ従者見習いやメイド見習い、ラ・クラルテ商会の下働きである子供達は、合計で十五名余りに及ぶ。文字の読み書きや計数の基礎が中心で、極端に難しいことを学ばせているわけではないが、一朝一夕に事が成るようのものでもない。
 神学の基礎なども同時に教えられるが、平民の知識層や貴族にも十分知られているような内容に留めおかれているようだった。リシャール唯一の心配は、『新教徒教育』が行われていまいかという点だったが、基礎の過程では一般的な内容に限定されているようで、少し安心した。迫害や弾圧はする気もないが、徐々にセルフィーユ全体が新教に教化されて、旗印などにされても困るのだ。
 但し、学舎の生徒の内、セルフィーユに移り住んできた新教徒の子息などが学んでいる上級課程では、その限りではないようだった。その内、本当にロマリアへと留学に出る者も出てくるはずだと聞いている。
 もちろん、そちらにまで口を出すつもりはない。リシャールとクレメンテは見えざる契約を結んでいるようなもので、リシャールは教育への隠れ蓑として利用し、クレメンテは会派の聖職者をロマリアから呼ぶために、学舎そのものを隠れ蓑にしていた。寄進も馬鹿にはならないが、今のところは互いに利があると言えた。
「覚えの早い子や、以前に余所で習い始めていた子らは、そう時を置かずに学舎を送り出すことが出来ましょう」
「ご苦労の絶えないこととは思いますが、よろしくお願いします」
「もちろんでございます。
 そうそう、ひとつご相談致したきことがございましてな」
「……はい、何でしょうか?」
 リシャールは一拍置いてから返事をした。
 余り色々と期待されても困るのだが、話だけは聞かざるを得ない。このあたりがクレメンテの上手いところだろうかと内心でつぶやく。
「司教座聖堂付きの騎士隊なのですが、旗頭となる者がどうにもおらず、いささか箔が足りませぬ。
 領主様には、何とぞ名誉騎士隊長をお引き受け願えぬかと思いましてな」
「名誉騎士隊長、ですか?」
「はい。
 私としては、『名誉』は取り去って、本物の騎士隊長をお引き受けいただきたいところではありますが……」
「はい!?」
 こともなげに付け加えるクレメンテに、リシャールの目は点になった。

 名誉称号は、ある組織に貢献のあった者に対して贈られたり、国家間で外交上の儀礼として贈られる意味合いが大きかったから、それほど深く気にするようなものでもない。義父などは、分厚い書類束が出来るほどの名誉称号を持っている筈だった。年金の付かない勲章の類、と言い切ってしまっても大きな間違いではない。
 しかし、『名誉』と頭に着くからには、実質的な活動は何もしなくても良いのだろうが、急に言われても驚くばかりである。
 それにリシャールは、貢献という点ではセルフィーユ大聖堂の実質的な出資者とあって資格も十分であろうが、自身が騎士であるとは思っていなかった。
 魔法戦で領軍所属のメイジ相手には勝ちを拾うこともあったが、どちらかと言えばトライアングルという魔法力に胡座をかいた力押しであり、誉められたものではなかった。翻って剣の扱いでは、義母カリーヌには稽古を付けて貰うたびにこてんぱんに伸されているし、ジャン・マルクが巧者と評したアニエスにも八割方は勝ちを奪われている。今ひとつ、強さに欠けると自分では思っていた。
 もちろん周囲の目には、そうは写らなかった。年回りを考えれば、現役の軍人から勝ちを拾うだけでも十分な強さを誇って良いことであるし、アニエスに剣で二割も勝てる者は希だ。義母カリーヌの二つ名は世間には知られていないが、『烈風』に稽古を付けて貰うこと自体がそもそも誉れであった。
 ただ、平の騎士や見習いならばまだしも、いきなり本物の騎士隊長となれば話は大きく変わってくるし、それが他国の息の掛かったものとなれば、躊躇せざるを得ないのだ。

 クレメンテへ返事を保留したリシャールは、数日悩んだあげく、マザリーニへと手紙を書くことにした。宰相にして司教枢機卿である彼ならば、ブリミル教にもトリステインのことにも詳しいし、リシャールが騎士隊長を引き受けた場合の立場にも似ている。どちらにも良い解決策を提示して貰えるような気がしたのだ。
 特にリシャールが気にしていた点は、勝手に物事を進めていいのか迷った事と、なにか事が起きた場合に自分がどういった状況下に置かれるのか聞いておきたいということであった。引き受けた場合に、リシャールに対して二重の上位者が存在することになるのだ。
 クレメンテらの一派が新教徒であるか否かという点は、実は問題ではない。トリステインとロマリアが相反する立場となった場合に、確実に微妙な立場に追い込まれると想像がついた故の迷いである。
 また、クレメンテの申し出を拒否することも難しかった。
 左遷同然とは言えど、クレメンテはロマリアより正式に認められた司教であり、その会派も正しい扱いを受けているのだ。それに、宗教的な意味合いに於いてブリミル教は国家を超越するし、総本山であるロマリアはトリステインと対立しているわけではない。リシャールは大して信心深くないが、生まれたときからブリミル教徒の一人には数えられているし、その影響力まで知らないわけではなかった。
 心情としてはトリステイン優先なのだが、どうしていいのかわからず困っているとも付け加えておく。
「これを王都のマザリーニ猊下に」
「はい、畏まりました」
 マザリーニへの報告とも相談とも付かない手紙は、王都と往復する便に乗せられ、運ばれていった。
 
「領主様、こちらです」
 マザリーニの返事を待つ間に、武器工場では新型砲が完成していた。こちらは先に作らせている物とは違う、刃鋼を用いた砲である。 
 演習場に引き出された砲は、野砲の台座に載せられていた。
「こちらが完成いたしました、セルフィーユ式六二三九年型十二口径四リーブル野砲であります」
「ほう、設計図を見せて貰った時にはそう感じませんでしたが、幾分背が高い印象ですね?」
「はい、一回り大きい径の車輪を用いた台座に座らせてあります。
 移動も楽になりますし、台座に組み込んだ機構の分、多少重くなっておりますので、この方が良いはずです」
 フロランの新型砲は、従来型の砲に比べて砲身長を僅かに長く取り、加えて砲座に噛ませる留め金を二段階の可動式にしてあることが特徴だった。陸上で使う野砲では地面を掘り返したり盛り土をしたりすれば砲の仰角を変えることは容易だが、艦載砲としては、二段階とは言えフネを傾けることなく射程の調節が可能となる画期的な発想であった。
 もっとも台座、砲本体ともに強度的な限界もあり、フロラン曰く、刃鋼を使っても十二リーブル砲が限度であろうとのことだった。それに砲の角度を変えるのは人力であり、可動部に梃子の原理を用いてあっても大型砲には向かない仕掛けであった。
「平射姿勢による直射時の有効射程は百五十メイルほどですが、仰角を変えることで、そのまま六百メイル向こうに弾丸を送り込むことが出来ます。
 盛り土をした砲陣地を作る余裕がなくとも射程を二段に取れますから、前線に追従して頻繁に配置を換えねばならない攻勢時には、特に有効となるでしょう。
 船舶砲の場合には、近接戦闘時には平射、それ以外の場合は角度をつけて射程を確保することになります。
 小型艦……特に海上を行く船の場合には、船体を傾ける時に時間の余裕がなく、どうしても重くなりがちな口径の大きい砲を用いずとも長い射程の取れるこの新型砲は、海賊除けに有効かと思います」
「なるほど……。
 しかし、当初は生産数も少ないですから、有効ではあっても、軍には野砲として売り込む方がいいかもしれませんね」
 リシャールは船舶砲の製造販売を主体に考えていたが、そうでない方が良さそうである。月産数門では、大口の注文は処理しきれないのだ。
 もちろん、取り付ける台座を変えるだけなので、砲の製造自体には余り影響がない。幾らかは部品の在庫を抱えるにしても、木工職人らへ発注をする時に留意しておけばよいだろう。
「試験結果の出る前ですが、ともかく製造をはじめて下さい。
 最初の二門は、予定通り領軍へと配備します。
 製造について、フロラン殿からは何かありますか?」
「はい、刃鋼を使用した場合、鋳込みと切削は先日作った従来型の砲よりも余計に時間と手間は掛かりますが、性能を考えた場合、やはり刃鋼を使う方が良いと思います。
 それから領主様、平行して十二リーブル砲の試作も行いたいのですが、よろしいですか?」
「そうですね。
 ……うん、許可しましょう」
 リシャールは余剰となっている資金の額を少し考えてから、返事をした。そろそろ、年末の返済も頭に入れておかなくてはならない時期である。年額四万エキューの返済は無理ではないが、それなりに重いのだ。
「それから四リーブル砲ですが、実射した結果を元にした性能表は、なるべく早く調えて下さい。
 それを元に、私は本格的に売り込み先を探してみます」
「畏まりました、領主様」
 試射の方は、基本性能を確かめた後、数日かけて破損するまで撃ち続けられる予定だった。既に領軍の土メイジを通常任務から外して試射専任とし、退避壕の建設やゴーレムによる点火役を命じてある。万が一だが、暴発時に死傷者が出ては困るので、過剰な対策を施してあるのだ。
 他にも、威力や射程を確かめる為の試射以外は砲を砂山に向けて放ち、砲弾を回収して鋳直す準備もしてあった。砲弾に使われる鉛も安いものではなかったし、自前で製造した方が多少は安く済む。
 リシャールは、改めてフロランが作り上げた砲に目を向けた。
 ほんの1メイルほどの砲身長しかない、大砲の中でも最も小型に分類されるものだ。
 だがその小さな大砲は、大きさ以上に頼もしくも見えた。






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